(三重県)桑名西高校
「明日に咲く花」 石垣 摩耶 作
《生徒講評委員会》
隔離病棟に入院中の広幸、涼介、里奈の三人は担当医兼先生の美帆とともに過ごす日々が続いていた。三人は、美帆の提案で三月にある病院祭で人形劇を発表する準備を始める。自分たちの病気について不安を感じながらも準備をしていた矢先、広幸が死んでしまう。それを受けて残された二人は自分たちのこれからについて考える。
病に冒されている三人が頑張ることを見つけていこうとする姿勢から、健康体である私たちはなおさらその姿勢を忘れてはならないと感じた。また、広幸の死後になってその存在の大切さに気づいたという二人の気持ちから、大切な存在であると常に意識していくことの重要性を感じた。
三人が病院祭で行うことに決めた『象の背中』は、離れ行く運命にある三人の状況の辛さをより悲痛に伝えるのに効果的であるように思われる。引用された詩からも、死者のことをを悲しむ気持ちだけではなく、明日を見つめてほしいという願いを増幅させている。
装置については、周りの黒いパネルが病室を取り囲むように配置されていたことから、隔離病棟の閉塞感が表されていて良かった。また、スライド式ドアの動きの滑らかさやが良かったという意見もある一方で、ベッドの置き方にリアリティが無かったり、紗幕を使用したことに対しては顔の様子や花が見づらかったことで違和感を感じるという意見も出た。
照明については全体的に明るさがコロコロと変わって安定せず見づらいという印象を受けたが、夜の病室のシーンでぼんやりとした照明を使用することにより、夜の持つ静粛とした雰囲気を感じるのに効果的だった。
音響については、冒頭でナースコールに関しての描写があったので、実際にナースコールを押した際にその音が無かったことに対して違和感を感じたり、ナースコールの音を入れていれば、より死が迫ってくるような緊迫感を増幅させられたのではないかという意見もあった。
ラストシーンについては、詩を読むことが死へ向かう前ぶれを表す行為であるように感じてそれを読んだ里奈も命を落としてしまったと感じたという意見や、タイトルにもある『明日に咲く花』を明日頑張ることと理解し前向きに生きていくことができたという意見があり、多様な解釈が可能となっていた。
三人の苦しい状況でも頑張ることを求め続ける気持ちから、未来に向かう気持ちを新たに出来た。
《専門家・顧問審査員会》
新型ウィルスに感染した二人の少年と一人の少女。隔離病棟で彼らの治療にあたる医師と看護師も含めた人間模様。命の終わりが予想される中、彼らはどう生きてゆこうとするのか・・・。ウィルスを道具立てとし、命の問題を扱い、非常に期待を持たせる要素が多かった演劇であった。しかし「言いたかったこと」がたくさんあったのに、作者の視点が定まりきらずに、台本上終わりきれていない、言い切ることが出来なかったと感じられた点が残念であった。
設定としては二人の男子の病室に女子が共に生活する、という点に疑問が感じられた。もちろん女子が登場してもいいのだが、それならば女子が病室を訪れ、またある時は自分の部屋に戻ってゆく、という形でもドラマが進行するし、女子の不在の時の男子二人のやりとりや、居る時の空気感の違いなど、より演劇的に深みのある表現が出来たのではないか。そういう点も含めると、この極限状態の三人の関係性こそ、この演劇の主題にしっかりと据えて欲しかったと思われた。医師・美帆という「魅力的な」キャラクターが関わりすぎたため、三人の関係性が薄まった、というのもあったかも知れない。それから、『象の背中』の引用に頼りすぎている点や、『徒然草』『方丈記』といった古典に、あまり意味を感じなかったという意見も審査会で出された。せっかく要所要所で活けかえられる花も、当然この物語の象徴と意識していたとは思うが、もっとこれをメタファ−として効果的に使って欲しかった。
一方で淡い印象の舞台や登場人物には高校演劇としてのさわやかさ、好感が持てたことも言っておきたい。演劇をみんなが愛し、日々活動している姿が垣間見られたからであろう。舞台をしっかりと使い切った装置は高く評価されるし、音響・照明も素晴らしかった。まだまだ手を加えてゆけばどんどん良くなる可能性を秘めている劇だと思うので、是非桑名西高校の財産として大切に育てていって欲しいと感じられた。